立地再検討の決断こそ、武田薬品にとっての最善の選択

 

斎  藤  勝  彦

宮  田     学

 
 

1、立地政策という観点からみた問題点

 

 今回の「武田薬品」のバイオ研究所の集約移転計画は、P3施設(毒性病原体を対象とする遺伝子操作可能)を含む、巨大な計画(研究所15棟他、大規模な実験動物火葬場、ゴミ処理場を併設)である。

 このような巨大施設から大量に排出される大気・水の中への病原体漏出の危険は、最新の技術をもってしても、平時においても確率的に存在し(武田側によっても0.03%)、完全な「物理的封じ込め」は不可能であることを武田側の専門家(小松俊夫氏)ですら認めている。また、遺伝子操作には、専門家でも解らない、未知の領域も多く、不測のリスクを伴うものである。

 リスクが解らない時はどうするか、その不測のリスクを極小化する立地対策を考えることこそが、経営者として最も大切な視点ではないのか。

 今回の研究施設は、東側では大総合病院(550床・15階建、建設中)、特別養護老人ホームに直に隣接し、半径500m圏内には、幼稚園・保育園5園、小・中学校4校が点在している。抵抗力の弱い病人・老人・幼児は、研究所群の190本の排気塔からの大量の排気に、未来永劫さらされることとなる。
 東側地域には、高層マンション群が吃立(きつりつ)し、西側地域では、稠密住宅街が続いている。さらに、研究所の正に目と鼻の先には、JR東海道線を挟んで、村岡新駅が構想されている。

 かかる人口稠密、交通の要所の地は、病原体漏出という不測の事態が生じたときには、第2次感染拡大が最も防ぎにくい場所であり、その意味では最悪の立地と言わざるを得ないのではないか。
 長谷川閑史社長は、環境担当取締役も兼務されている由うかがっているが、今回の立地について、我々住民が納得できるご見解をご披露願いたいものである。

 なお、湘南には、大阪の彩都にあるようなバイオ規制がないので、「武田薬品」は湘南に建設するとの選択をしたのではないか、「武田薬品」の研究所立地選択は、公害輸出企業と同然の規制逃れを図ったものではないかと疑う声さえあることを付言しておく。

 
 
 

2、「武田薬品」の企業体質・説明会の性格(住民との対話忌避の態度)

 

 「武田薬品」は、昨年春ころ、研究所建設のリーフレットを戸別配布したとのことだが(もっとも全然気付かなかったという住民の方も多い)、その中では、事業実態は明確には示されていなかった。特にP3施設(毒性病原体の遺伝子操作を行うことが可能な施設)については、多くの住民はタウン情報誌および人伝えにて計画を知ったと言っている(そして、今なお、大多数の住民は、武田が危険な大研究所を計画していること自体を知らない状況と言えよう)。

 本年2月に初めて開催された住民説明会においても、説明の重点は、工場解体と建設計画に重点が置かれ、事業内容(病原体の取り扱い、動物実験)などの部分は、付け足し的にしか扱われていなかった。
 これまでに「武田薬品」は、我々の安全に対する危倶について誠実に答える対話の機会は、いくらでも作れたにもかかわらず、7月5日の県主催の公聴会においてすら、大川滋紀取締役(研究開発の責任者)は、「武田薬品」の世界における研究拠点と、武田のホームページにも書かれている「タケダイズム」(=誠実ということらしい)の説明のみに終始し、何ら住民の疑問に真正面から答えようという姿勢がみられなかった。

 同様の不誠実な態度は、「武田薬品」主催の最近(7月21日)の説明会にも認められた。
まず、説明会の案内先は、県のアセス条例で「周知を要する」と定められている3km以内の中の「関係地域住民」ですらない。研究所敷地に隣接する「ご近隣の皆様」だけに限定し、それ以外の関係住民には、会の開催を知らせることすらしなかった。また、聞きつけて駆けつけた「関係地域住民」の発言については、「ご近隣の皆様」の質問が終わった後のみという劣後的な扱いとし、その質問時間は、正味30分にも満たなかった。
 「武田薬品」の説明は、「新しい方々もいる」という言い訳のもと、またもや、武田のホームページレベルの「タケダイズム」の話と、従来通りの一方的かつ概括的な新味を欠く説明であった。研究所の中身自体を説明した資料は、ただの1枚も配布されなかった。
 「武田薬品」側が繰り出した専門家(小松俊彦氏)も病原体(細菌・ウイルス等)の施設内への物理的封じ込めについて、100%とはいい切れず、0・03%程度はもれることを認める始末。住民の危倶は何一つ解消されることがなかった。

 しかるに、「武田薬品」は、再度の対話型説明会についての住民の要望に対して、完全に拒否し、説明会を打ち切ることを言い切った。

 かかる住民無視の不誠実な対応は、「武田薬品」自身が強調する「タケダイズム」とどういう関係になるのであろうか。湘南の地でこのような不誠実な態度がとられているということを、武田の株主や、真面目に働いておられるであろう多くの武田の従業員の方々は、ご存じなのだろうか。いずれ、誠実を標梼する「武田薬品」の経営に悪影響を及ぼすことは必至と思われる。長谷川閑史社長(環境担当取締役も兼務しているとお聞きしている)以下、経営陣の猛省を促したい。

 
 
 

3、環境影響評価手続(アセス手続)のやり直し=「評価書案」の再提出を

 

 神奈川県のアセス手続は、条例で定める評価項目(施行規則第3条関連)について、事業者に評価書案を作成させ、それを20人の評価委員からなる審査会にて審査させることとなっている。
 しかし、関係地域住民にとって、最も重要なバイオ・ハザード(災害)リスクの評価検討は、そもそも、その評価項目の中に含まれていないのである。

 昭和55年(28年前)に制定されたこの条例は、もともとバイオ災害を想定外としていたとみられ、今回の「武田薬品」研究所進出を審査担当する20人の評価委員の選任においても、住民の命の観点から、最も重要な分子遺伝学、バイオ実験技術またその危機管理などの専門家は、唯の一人も入っていない。
したがって、事業者(武田薬品)は、条例とバイオ災害を、まともに取り扱う必要はないのである(条例の不備)。事実、武田薬品の評価書案の中ではバイオ・ハザード・リスクについての説明・分析・対策の検討結果等は、何も記載されていない。

 その後、住民の安全にかかる懸念からの数々の意見書という形での質問に対しても、「武田薬品」の見解書の中での回答振りは、「関係法令に基づいて適切に対処することにより、住民の安全は担保されている」と、おおよそ根拠にならない抽象的な一言で済ませてあるところが12ケ所もあり、「武田薬品」は住民に対する科学的な具体的な説明を全く忌避している。

 また、条例で決められている19の評価項目のうち、住民にとって公害上最も重要な「水質汚濁」、低地の液状化対策との関連で重要な「地盤沈下」また「文化財」など、9項目がなぜか採り上げられておらず、きわめて不完全な評価書案となっている。
採り上げられた「大気汚染」「悪臭」「廃棄物・発生土」の項目についても、当研究所が、大規模な動物の火葬場、大規模な 廃棄物焼却炉2基を併置した巨大なバイオ研究所であるとの観点から、評価書が適切な分析を行っているとは到底いい難い。

 結論的にいえば、「武田薬品」の評価書案は、「環境アセスメントとは言えないほどずさんな内容」ということであり、県は「武田薬品」に対して、やり直しを命ずべきである。

 
 
 

、立地再検討の決断こそ、武田薬品にとっての最善の選択

 

 欧米では、国・州によっては半径5キロ以内が無人のところでしかP3施設以上の危険な施設は作らせないという国すらあると言う。前述した通り、人口稠密、交通の要所の地での大規模かつ危険な研究所の建設は、最悪の立地政策である。

 有能な「武田薬品」の技術陣をもってしても、関係地域住民の不安を取り除くに足りる安全性についての立証が完全にできない限り、経営トップが立地を再検討すると決断することこそが、「武田薬品」としての最善の解決策であると考える。

 

 

大船フラワーセンターのブーゲンビリア  
(執筆者は、いずれも鎌倉市在住。宮田氏は弁護士)