地球を守るという立場から見た武田問題

 

鎌 倉 市     宮   澤   政    文

 


私は武田薬品研究所の問題のうち「排ガスと大気汚染」「安全性」「情報公開」等の問題を、地球温暖化といいますか、地球を守るという立場から、意見を述べさせて頂きたいと思います。

 

 

1.排気ガスと大気汚染をめぐるシミュレーションの問題点

 

 最初は排気ガスと大気汚染の問題です。武田薬品はアセス説明会において「数値シミュレーションをやったが、最悪条件下でも全部規定値をクリアしている」と言いました。

 そこで、私は検証してみようと思いました。ところが、前提条件が全く分りません。内容、プロセスも「アセス評価書案」には書いてありません。例えば、どんな地形モデルを使ったのか。周辺地域の地形とかマンションとかを含めた立体モデルを作ったのか。どんな方程式を使ったのか。どんな計算コードを使ったのか。そのコードの信頼性はどうなのか。境界条件はどうなのか。そういうことが全く分からない。これでは信頼性がないと言わざるを得ません。現在、世の中には色々なコードが沢山ありますから、計算するだけなら、これは中学生でもできます。係数やインプット・データを少し入れ替えると、結果の数値などは10倍、100倍、すぐ変ります。「追試」できない実験や数値計算は科学の世界では通用しないのです。

 例えば、最近、IPCCが地球温暖化の計算結果を公表しましたね。これには6つのシナリオがあります。シナリオというのは前提条件です。その計算結果によると、地球の平均気温は、今から約80年位後には1.1度から6.4度の間で上がるだろうと予測しています。「だろう」ですよ。6倍も違うのです。海面上昇だって4倍も5倍も違います。つまり、世界中の科学者が一生懸命やって、それだけ幅がでるということです。予測というのは、そういうものです。

  数値シミュレーション、CFD(数値流体力学)の計算に取り組んでいる研究者は大勢おります。気象研究所でも環境研究所でもやっております。今回のケースでは、こうした公的機関の科学者・研究者に検証してもらわない限り、信用できない。但し、検証して貰うには、先に述べた前提条件、境界条件、インプット・データなど、計算に必要な条件を全て提示しなければなりません。さらに言えば、数値シミュレーションというものは、それが実証されない限り単なる数字の羅列になってしまいます。

 



2.巨大な排気塔

 

 次は総量の問題です。これは今日の公述人の方も何人かお話されたことです。私も昨夜計算し直してみました。バイオ実験、動物の飼育・死体焼却、化学実験、生物実験などの結果汚染され、強制排気されるガスの総量は1時間に約800万立方メートルになります。1日に12時間稼動すると仮定すると、9,600万立方メートル、東京ドーム77杯分です。武田の研究所の敷地の面積は25万uです。すると、この敷地の上に1日12時間分の排気ガスが380 mの高さに積み上がります。

  その排気ガスを半径3 kmの範囲の住民が全部引き受けるとしましょうか。それがどの位の量になるかというと、これは3 m以上の高さになります。みんなアップアップして、フレッシュな空気は吸えませんね。もっとも、県知事のおられる関内のあたりでは大丈夫だと思いますが、我々近隣住民はそういう訳にはいかない。フレッシュな空気は吸えないことになります。

  ですから、これは巨大な汚染ガスの排気塔です。これは12時間稼動の場合ですよ。もし24時間稼動するとなると、この倍になります。高さ760 mの排気塔になります。別の公述人の方が言われた「巨大な排気塔」というのは、まさにその通りだと思いますね。

 



 

3.希釈の問題

 

 次は希釈の問題です。2月のアセス説明会で住民の方が質問しました。そういうふうに強制排気されたガスはどうなるのかと。そうしたら、武田薬品は「拡散・希釈されるから問題ない」と答えました。

 ところが、これが問題なのですね。希釈という言葉には二つ意味があります。今の法的規制というのは濃度規制でしょう。何ppmならオーケーと。1リットルの有害な原液があるとしましょう。これに100リットルの水を入れると濃度は1パーセントになりますね。100万リットルの水に入れて薄めるとどうなりますか。1ppmですね。さらに水を加えて薄めていくと、つまり希釈すると、どんなに危険な排気ガスでも排水でも環境基準をクリアしてしまう。排気ガスや排水の濃度規制というのは、そういうものです。大量の空気や水で希釈して濃度を低くすれば規制値をクリアするのです。

  もう一つは大気汚染。スライドに「拡散・希釈は地球温暖化の根源」と書きました。元凶と言い直してもいい。つまり、大気とか海とか地球が無限であれば、毒性ガスを外に出しても拡散・希釈されるので問題ない。

 しかし、地球は有限です。有限だから地球温暖化問題が起きているのです。これはアメリカのロサンゼルスで1940年代に実際にあった話です。大気汚染或いは公害問題の出発点と言ってもよい出来事です。フリーウェイという自動車専用道路ができて暫く経ったときのこと、その周辺の住民が「何か変だ、原因は自動車の出す排気ガスではないか」と騒いだそうです。ところがフォードの社長か会長か、ともかくトップの方が「大気は無限である。自動車の排気ガスは拡散・希釈されるので問題ない」と言ったのです。全く同じことを武田薬品の方は今回の説明会で言われた。

 「希釈されるから問題ない」という考え方は地球温暖化・環境破壊の元凶であります。

 



4.安全性の問題

 

 次は安全性の問題です。既に別の公述人の方が指摘されましたように、武田薬品は「法令に従い適切に処置するから安全である」と繰り返し言ってきました。見解書でも何度も述べています。しかし、日本には立地規制など、法的規制が殆どありません。さらに、武田薬品は自分の会社の実績は完璧だと主張していますが、武田は、実際には後で述べる通り、大変な事件を引き起こしています。

 武田薬品の見解書には、「万が一にも生物災害、バイオハザードはない」と書いてあります。万が一にもないということは「絶対安全」ということで、これは神様の領域ですね。「自分が神様だ」と言う人は、世の中にいないと思うのですが、武田薬品はそう言っています。それから、「社員の訓練が完璧だから安全です」とも言っていますね。武田薬品ではヒューマン・エラーは皆無なのでしょうか?

 さらに言いますと、HEPAフィルターも完璧ではありません。HEPAフィルターは公称、粒径0.3ミクロン以上の物質を99.97%の確率で捕捉すると言われている。困ったことに、ウイルスの大きさ(粒径)は、殆ど全て0.3ミクロン以下です。ですから、ウイルスは殆ど全部HEPAフィルターを通過して外に排出されます。

 武田薬品の実績の問題ですが、厚生省で把握した患者数だけでも11,000人という薬害スモン事件がありました。さらに、子会社の吉富製薬のクロロキン事件、これも大変大きな薬害事件でした。“誠実な”会社の実績を強調したいのであれば、プラス・マイナス双方の実績を“誠実に”公表すべきはありませんか?

  それから、動物の問題です。実験動物の死体焼却炉は1日に1.8トン処理するとのことです。すると、体重15 kgの猿(サル)に換算して1日に120匹も燃やすことになる。動物の死体焼却後の煙、灰、ダイオキシン、すす、浮遊粒子など汚染物質は、高さ15 mの煙突から排出されます。これは、焼却炉を運転する従業員にとって大変なことだと思います。しかし、この汚染物質を朝から晩まで吸う住民はもっと大変です。結局、近隣住民は健康障害と精神的苦痛を受けます。これは火葬場と言ってもいい。

 現在、殆どの火葬場には、煙突がありませんよね。これは、火葬炉の排気ガスの再燃焼などの最新技術によるものだそうですが、同時に、近隣住民の拒否感に配慮したものでもあるのです。新研究所の「動物の火葬場」計画にはそのような住民への配慮が全く見られません。

 



5.情報公開の重要性

 

 情報公開について。今まで(アセス評価書案、説明会、住民の意見書提出、武田薬品の見解書まで)のプロセスにおいて武田薬品は、まともな情報を住民に示していません。従って、我々住民の不安と恐怖感は増すばかりです。

 「武田のやることは絶対安全だから公開する必要はない、信頼して見ていてくれればよい」と武田薬品は言っています。しかしながら、住民が武田薬品を信頼できるか否かは、武田薬品が正しい、質の良い情報を公開するか否かにかかっているのです。

 さらに、企業秘密の問題があります。武田薬品は事あるごとに企業秘密だから情報公開できない、と言ってきました。武田薬品にとって、人の命・健康より企業秘密のほうが大事なのですか? この点については、既に2002年、高槻市・JT(日本たばこ産業)のP3バイオ施設に関する住民訴訟において、大阪高裁の下した判決が明確に企業の守るべき規範を示しています。武田薬品の関係者はよく読んで頂きたい。

 日本製薬工業協会には倫理綱領があります。「製薬企業としての自覚に基づき、企業情報を積極的かつ公正に開示する」とあります。こちらの方はどうなっているのでしょうか?

 



6.バイオハザードの特殊性

 

 バイオハザードには、スライドに示したように、早期検出が困難である、増殖する、不顕性感染するという特殊な問題があります。災害防止には、いろいろな対策が考えられますが、まずは住民へのワクチン接種が良いそうですね。イギリスの専門家が推奨しています。住民にはワクチン接種を考えて頂きたい。
  それから、防災訓練を実施して頂きたい。疫学調査も必要でしょう。さらに、大気とか汚水とか生態系の日常観測・モニター。これはぜひ実施しなければならないことだと思います。

 



7.行政当局への提言

 

 最後になりますが、県と関係市の行政当局に提言します。住宅密集地における巨大なバイオ施設の設置・稼働は再考して下さい。そして中止して頂きたい。できなくても、最低限、環境アセスメントをやり直して頂きたい。

  次に、茨木市彩都の規制指針〔=茨木市彩都(国際文化公園都市)内におけるライフサイエンス系施設に係る環境保全対策指導指針〕というのがありますが、それと同等以上の規制を制定すること。

  それから、排気・排水のモニターを日常的に行うこと、及びそのデータを公開すること。汚染ガスや汚水の排出について、濃度規制とともに総量・絶対量を規制して頂きたい。これらは住民の生命・健康・生活を守るために必須事項です。

  さらには、防災訓練を毎年実施して頂きたい。住民(Tax Payer)の生命・健康・生活を守るため地域環境条件を整えることは行政の責任であると理解していますが、如何でしょうか?

 武田薬品の新研究所は、単に危険度の高いP3バイオ実験を行うというだけでなく、大量の実験動物を投入して世界的にも類を見ない巨大な規模で遺伝子操作を行うため、その設置・稼動は大気汚染・水質汚染・地球環境破壊に大きな影響を与えるものと予想されます。県・関係市当局の善処を求めます。

 

大船フラワーセンターの花々
 
(本稿は、2008年7月5日に行われた公聴会での発言に加筆・訂正していただいたものです。)